日本一周自転車旅行 名古屋〜箱根




・昭和39年7月6日

・宿泊地ー名古屋市内(旅館)
・走行距離ー89キロ
・使用金額ー1522円
・天気ー晴

以前より文通していた森 京子さんに会う、長い時間話すことは出来なかったが、親切に旅館を世話してもらう。しかしお金を払うのは俺だ、贅沢をする旅行に出発したのじゃ無いことを思い、自分がいやになる。

これからは、楽な方を選ばず、無駄使いをせず、もっと気を引き締めろ、いいな。旅館代は高いし、なんか迷惑そうにしてるし、情けなくて寝れなかった。

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・昭和39年7月7日

・宿泊地ー夜泣き石ドライブイン
・走行距離ー153キロ
・使用金額ー320円
・天気ー曇

今日もご飯を有り難く、おいしくいただく。浜名湖の橋の上で東京から来た田中さんに会う、橋の上でしばし立ち話をする、話すことで気分がとても良く、足も気持ちも軽くなる。

九州まで自転車で行くそうだ、自分のことを忘れて、えらいなあと感心する。大学生でとても頼りになる先輩だ。東京に行ったら「家に泊まりなさい」と母上の名刺に紹介状を書いてもらう。いい人に会い嬉しくなってハッスルして走り出す。この頃はいろんな人達に会うので、なにかと楽しく足にも力が入る。


田中さん

しかし夜はやはり寂しい。ここ夜泣き石ドライブインは寝るには邪魔者はなくいいけど、ヤケに寂しい、夜中に目を覚まし、昔アチャコだったか「弥次喜多道中」の映画での一場面を思い出してしまった。ちょうど此処、夜泣き石で夜中に赤ちゃんの泣き声がする、こわいおばけの話だった。えらいものを思い出してしまった。他のことを考えようとしても、どんどんその中に入ってしまう。しまいには赤ちゃんの声が聞こえて来て、寝られるもんか。

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朝霧高原


・昭和39年7月8日

・宿泊地ー井の頭バス停
・走行距離ー?キロ
・使用金額ー?円
・天気ー小雨

昨夜はベンチに寝ていたら、雨が降ってきたので仕方なく公衆便所に避難する。便所の壁にもたれてうつらうつら、怖いし臭いし気持ちも悪いので3時半から走り出す。


白糸の滝

7時判に焼津に着く、今日も又無理をして走ったもんだ。国道136号線にはいり、白糸の滝を見にゆくが、あまりに寒いし別に景色もたいして良いこともないし、名前負けしてる感じで、少しガッカリして早々に帰る。

そんなことより、今夜のねぐらの方が大事や、交番に行き『何処か寝るところはないですか」と頼んでみる。困った顔で、なるべくニコニコしてお願いすると、きっと親切に助けてくれるだろう。結果はいつもの「住所は」「名前は」「親の名前、住所は」などなどまるで犯罪者あつかいの尋問のあげく「このあたりにそんな所なんかないからよそに行け」と言われる。惨めで情けなく、腹が立つが仕方なく走り出す。もう二度と警察なんかには行かんど!しばらく行った所でバス停を見つけて、さっきのおまわりさんが来ないか心配しながら寝る。

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関学の人達との楽しい一夜


・昭和39年7月9日

・宿泊地ー西湖ユ−スホステル
・走行距離ー?キロ
・使用金額ー?円
・天気ー小雨

バス停を6時に前に出発、霧のために5メートル先が見えない、そのうえ火山灰のネバネバ道が何時までも続く、自転車のタイヤに泥がからみ、だんだんタイヤが太くなる、そしてやがてタイヤが回らなくなる、水筒の水をかけるとしばらくは回るので水をかけながら進む、しまいにその水もなくなり水のある所まで、自転車を担いで歩く、こうなると自転車はじゃまで大きな運びにくい荷物だ。

夏とは思えない寒さで、足元しか見えないひどい霧、鳥もちみたいにベタベタ粘る道、富士の裾野とは恐ろしい所だ、10時すぎユースホステルに着く、会員ではないけど今日はもう走りたくないので、「泊めてほしい」とたのむ「今日は貸し切りだけど1人ぐらいならどうぞ」と言われ、まずホッとする。


ユースホステルより見た西湖


山中湖

泊まり合わせた関学の絵画部の人達はみんな楽しくて、ゆかいで親切でいい人ばかりだ。のんびり風呂にも入れたので、つかれた体もずいぶん楽になった。夜は屋上でみんなの仲間に入れてもらい、歌を歌っておそくまで遊ぶ。部屋に帰ってからも、夜中まで話をする、本当に有意義な1日だった。

神戸の船木さん、西宮の上田さん、川上さん、みなさんおおきに楽しかったです。

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箱根関所跡


・昭和39年7月10日

・宿泊地ー箱根温泉バス停
・走行距離ー?キロ
・使用金額ー?円
・天気ー濃霧

今日もとうとう富士山は顔を出してくれなかった、山中湖では道を間違えてとんでもない所に行ってしまう、10キロほど自転車を押して峠をホッコラホッコラもどる、ショックでどっと疲れが出る。箱根関所跡を見に行く、その昔は、ここで「住所は」「名前は」「親の名前は」などと、今まで俺が何度も聞かれたことを聞かれ、通行手形まで見せないと通して貰えない、それを思えば今は良い時代なのかと思う。

のんびりしていたら暗くなってきた、寝るところを探しながら走るけど、なかなか濡れない所が見つからない、天気が悪く火がたけなくて困った。途中の店で親切なおばさんにご飯を炊いてもらって食べる。困ったときに親切な人に会てとても嬉しい、俺は幸せな男だと思う。人に頼ってばかりいたらアカンと思うけど、あまりに心細いし、やはり嬉しい。


箱根旧街道


長尾峠

箱根までやっと来て、ダウンする。真っ暗なので手さぐりでバス停に入り、毛布をかぶり寝る、こんな調子で毎日走ったんじゃ体も心もまいってしまう。寒いし、車は怖いし屋根のない所での野宿は寒くて寝るのがつらい。

しかしこのバス停にはビックリした。寝るときなんだか臭いなとは思ったけど、疲れていたし、暗かったのでそのまま寝てしまったが、朝 目が覚めていやになる。頭の先30センチの所に「人間のうんこ」の山があったなんて、ヤイこの「うんこ」の持ち主、わざわざベンチの上にすることないやろ、


一号線で一番高い所

このところ自分の精神の弱さを知り、情けなくなる。ちょっとしたことですぐに寂しくなるし、思うようにならないと自分にではなく、世間に腹を立ててしまう。夜 朝になれば汽車で帰ろう、と思い朝になればそんなことはコロッと忘れ機嫌良く自転車をこいでいる。

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