日本一周自転車旅行 九 州 2




阿蘇山 火口

・昭和39年8月28日

・宿泊地ー阿蘇山腹
・走行距離ー118キロ
・使用金額ー990円
・天気ー晴

七時前にでた「水光丸」は一時間ほどで三角港についた。道を間違えたりして、余計に重くなった足を励まして、熊本から阿蘇に登る。思ったより遠く感じた。

途中宮本武蔵の墓があったりして、ビックリする。武蔵は歩いてこんな所まで来たのかと、感心して、頭を一つ下げておく。


宮本武蔵塚

阿蘇登山道路通行券

目的地の阿蘇に着いたときは、もう周りが薄暗く、ロープーウエーはもう動いてなくて、頂上の売店も閉まっていた。しかたなく、自転車と一緒に行くことにして登りだしたが、まさかと思ったけど、火口までの階段のような道を、自転車を降りずに火口まで登れたのには、我ながらびっくりする。こんなに足に力が付いていたのか?

頂上では、単車でやはり登っている人達がいて、その人達がみな、自転車で登ってきた俺を見て、ビックリしていた。

何時の頃からか、どんな峠でも自転車のペダルをこいで平気で登れるようになっている。初めのうちは、ちょっとした峠でも自転車を押していたことを思えば、偉いもんだと改めて感心する。阿蘇のスケールの大きいのに感動する。

俺は日本一の美しさと雄大さを備えたのが阿蘇山だと思う。北海道の大沼公園も美しかったけど、あそこは女性的な美しさだ。ここはほんまに男らしいところだ。

登るときの空腹には参ったけど、この景色に、そんなものは何処かにふっとんでしまった。


牛ものんびり道を渡る

初めてご飯の缶詰を食べる。

あまりうまいとは思わないけど、食べられることのありがたさも、一緒にかみしめる。お金などを貯めるより、腹一杯食べる方が良いとしみじみ思う。まだ腹には何でも入りそうだけど、もう何にもない。

頂上は寒そうで、寝れそうにないので、しかたなく、元きた道を下る。夜の寂しいドライブウェイを一人で走っていると、無性に虚しい気持ちになってしまう。途中まで来ると、頂上であった単車の人達がテントを張るところに出会う。寂しかったので嬉しくなる。一人ぐらいなら寝かせてやるというので、喜んで泊めて貰うことにする。

岡山から来たらしい。さっきまで寂しかったので、二倍嬉しい。しかし夜はとても寒く、朝まで寝ることが出来ず、毛布を巻き付けてふるえる。


自然の不思議な作品
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桜島(鹿児島より)

・昭和39年8月29日

・宿泊地ー鹿児島駅ベンチ
・走行距離ー?キロ
・使用金額ー?円
・天気ー快晴

朝の寒いこと。ほんまに北海道と間違う寒さだ。

ふもとまで、単車のスピードについて快適に走る。朝靄をついて走るのは、ほんまに気持ちのいいものだ。昼食までに90キロほど走る。何と調子のいいこと。

だが田甫駅まで来たら急に家が恋しくなり、これ以上走るのが嫌になってしまう。俺はもうダメだ。とてもつらくなり、足などパンパンになり引きつったみたいで、動かなくなってしまう。

仕方なく汽車に乗り、鹿児島まで行く。23時30分鹿児島駅に着く。

なぜかもう終わったような気になり、力もなく駅のベンチに朝まで寝てしまう。

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鹿児島市 平和通り

・昭和39年8月30日

・宿泊地ー垂水市海岸
・走行距離ー?キロ
・使用金額ー370円
・天気ー快晴

朝5時頃目が覚めたので、ブラブラ町を歩く。汽車で送った自転車がまだ着いていないので、時間つぶしのためにお城に登る。城跡で2時間ほど西郷さんになったつもりで考え込む。

やはり元気を出して自転車で帰ることにする。分かっていることだけど、自分に我が儘になってしまっている。今までの苦労が何の勉強にもなっていないじゃないか。何でつらい想いをしたんだ。何で寒い想いを!ひもじい想いを!頑張れと自分に言い聞かす。

西郷さん、あんたは偉いよ。よし!もう一踏ん張りしようと決心して、山を下る。


桜島(噴煙がでたとこ)

桜島 溶岩の中に道は続く。

途中で松本という人に会い、自分の家族の愚痴を聞かされる内に、俺まで馬鹿になってしまう。その人に無理に「西日本新聞」に連れて行かれ、旅行のことを聞かれる。何でこんなにと思うほど写真を一杯撮られる。明日の新聞に載るそうだが、売名で旅行をしているみたいで、自分がみすぼらしく感じる。

町会長で医者をしているというその人は、200円をくれたが、嬉しいような、そうでないような、後味の悪い半日であった。

駅前に戻り、道にズラリと並ぶパインの売店で話が弾み、パインを試食させてもらう。そしたら、おもしろがって隣の店も一切れ、又隣も一切れと殆ど全部の店が食べさせてくれる。腹が一杯になり、大いに感謝する。

駅で自転車を受け取り、桜島に渡る。ゴロゴロした真っ黒の火山岩の中に美しい道がうねうねと続き、見とれてしまうほどロマンチックだ。夕方になり、夕焼けに桜島の煙が、美しいコントラストを見せて立ち上り、友達がいたなら、きっと時間が止まってしまうんじゃないかと思うけど、今はとても強いホームシックにかかってしまい、その美しい景色さえも寂しい。一日も早く帰りたい。

ああ!さみしいなあ.... 垂水市近くの海岸で野宿をする。

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青島

・昭和39年8月31日

・宿泊地ー鵜戸崎堤防
・走行距離ー114キロ
・使用金額ー360円
・天気ー晴

調子は良かった。旅行者も少なく、一人でのんびりかみしめて走る。

途中で久しぶりに自転車旅行中の小野君に会う。道で長い立ち話をする。小野君は日本縦断をしているそうだ。一緒に写真を撮り、写真を送る約束をする。写真代として、どうしてもとっておいて欲しいと、40円預かる。


すれ違った自転車仲間

小野君と

日南の海岸は美しく、島も海も道ばたのソテツ並木も、まさに南国を感じる。

サボテン公園は、びっくりするくらいの種類のサボテンや熱帯植物があり、道は悪いけど、観光地九州の顔だと思う。 まさにここが日南海岸だ。ホワーンとしたムードが漂っている。

宮本武蔵が人間を磨くためにこもったという、鵜戸神社に参る。そして近くで夜釣りを見ながら、堤防で寝ることにする。「たくさん釣れているのに一匹もくれない。ケチだな」なんて思いながら。

仙台市 小野 寛彦さん
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日南海岸(サボテン公園)

・昭和39年9月1日

・宿泊地ー海岸野宿
・走行距離ー120キロ
・使用金額ー655円
・天気ー晴れのち曇り

サボテン公園、青島、子供の国など、日南の数々の公園の美しさに、うきうきと足が軽い。調子よく走った。

しかし、足が軽い反面、明るい電灯の下での生活が恋しく、一日も早く帰りたい。四国に行く気はもう無くなってしまった。もう大阪に飛んで帰りたい。

しかし宮崎や九州の道路の美しいのには感心する。路肩には、美しい花や、木や、サボテンなどが植えてあり、心が安らぐ。日向市を過ぎたところ、門川町の海岸で野宿。


日南海岸(同じ自転車仲間)
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日南の不思議な景色(鬼の洗濯岩)

・昭和39年9月2日

・宿泊地ー犬飼河原野宿
・走行距離ー118キロ
・使用金額ー292円
・天気ー晴

途中、柿の木にのぼって取って食べる。もちろん黙って、木にだけ断って。柿をかじりながら山の中を走る。

風連鍾乳洞を見物に行く。えらい遠周りになってしまいゲッソリする。きたからは、しょうない。その上、入洞料が80円もする。腹が立つけど、ここまで来たんだからしかたない。勿体ないけど、ええい入れ!

中は涼しい。とても美しいものだった。

犬飼まで来て、雨が心配だったけど、河原に降りて寝ることにする。「犬飼何とか言う人がおったなあ」なんて思いながら寝る用意。と言っても毛布を広げるだけだけど。ここは、阿蘇の方に行く、57号線との道、でも何だか寂しいところだ。


大分県 風連鍾乳洞

大分県 風連鍾乳洞

風連鍾乳洞 入洞券
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