日本一周自転車旅行 鳥取県〜山口県



鳥取砂丘

・昭和39年8月19日

・宿泊地ー鳥取砂丘
・走行距離ー127キロ
・使用金額ー305円
・天気ー快晴

中山村の資母小学校を出発してしばらくすると、夕べお世話になった先生が追いかけてきて、チョコレートをくれる。わざわざすいません。おおきに戴きます。こんな贅沢なものは食べてないので、嬉しかった。それと、動力は早いもんだ。アットいう間に追い付かれるもんね。そして、アッという間に見えなくなってしまった。まだ濡れている洗濯物を乾かしながら時枝君と二人でさっそく食べる。腹の隅々まで満足するおいしさだった。

今日は今までにないしんどい目に遭う。目的地に着いたのは、夜の11時になっていた。

途中で自転車のペダルが空回りしてしまい、何回も修理のために止まる。油を差してしばらくすると又ダメになる。又油を差して、だましだまし走る。


今日も塩かけご飯の食事

川原で、お盆のお供えを見つけ二人で喜々と拾い回る。なす、きゅうり、果物、お菓子など色々いっぱいあって嬉しかった。子供の頃、お盆はいつもこうして拾い集めていたので、なつかしくもあったが、この辺りの人は誰も拾わないらしく、少し恥ずかしかった。

そして、途中の道ばたで20世紀の梨畑があったので、二人で顔を見合わせ、目で合図して、木にだけはお断りして、黙って貰ってきて、晩飯代わりに食ベながら走る。畑の持ち主のオジサン、ごめんなさい。俺達の命を繋ぐために、大きく美味しい梨を育ててくれたのじゃないだろうけど、結果的にはそうなってしまったね。

なんとなく時枝君と張り合っているようで、神経が疲れる。それで二人とも、いじみたいにここまで来てしまった。一人なら何もこんなに無理して走ることはないのだが、旅は道ずれと言うからね。ま、こんな日もあって良いか。もうすぐ寝てしまうだろう。

神戸市灘区 時枝 雄三さん
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松江城

・昭和39年8月20日

・宿泊地ー松江城
・走行距離ー135キロ
・使用金額ー185円
・天気ー快晴

今日も調子が悪く、昼からやっと調子が出てくる。朝の内はしんどくてバテてしまった。松江城に着いたのが7時頃だった。

お城は美しいけど売店などはひどく感じが悪い。朝までに、はたしてこの疲れが取れるかと心配になる。この頃しんどくて、ボケーとしていることが多い。


松江道路
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出雲大社

・昭和39年8月21日

・宿泊地ー鳥井中学校
・走行距離ー88キロ
・使用金額ー94円
・天気ー晴

松江城の石垣の上で一夜を過ごしたけど「蚊」の多いこと。しばらく手を出して血を吸わせておいて、手にぐっと力を入れて蚊の口を抜けなくする。そしておもむろに、片方の手のひらでザァーとこすると、面白いほどやっつけられる。

とても寝るどころじゃない。このクソ暑いのに、頭から足まで毛布にくるまって寝る。暑いので毛布を取る、又かぶる、それの繰り返しで、朝薄明るくなるのを待ちかねて出発する。寝不足のために、足に力が入らず、ペダルがやけに重い。

出雲大社に行く。売店のおばさん達に大変お世話になる。


出雲大社 売店のおばさん

防風林(松江)

この辺は風が強いのだろう。家の周りをどの家でも高い木で囲いをしてある。遠くから見るととてもりっぱだ。枝を美しく切りそろえてあるけど、高いから大変だろうなと思う。

時枝君とはどうしても気が合わない。話もしなくなり、抜いたり抜かれたりしながら走る。先に行ってもらおうと、ゆっくり走ってみると、待っていてくれたりして、どうしてもちぐはぐになってしまった。そんなことばかりしていると、精神的に参ってしまう。自分が情けなくなる。

6時頃、鳥井中学校に着き、宿泊をお願いする。気持ちのいい先生に快くOKしてもらい、もう安心だ。動く気さえないけど、ご飯を炊き、卵を買ってきてご飯にかけて食べる。もう疲れてしまってダメだ。どこかで一日休みたいなあ。俺らしくないぞ。弱音を吐くなんて。百キロ走るのがとてもつらくなった。台風が来ているのも心配だ。

島根県出雲大社町下原  西村 キミ江さん
島根県大田市立鳥井中学校 竹下 安信さん
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鳥井中学校の生徒

・昭和39年8月22日

・宿泊地ー宇野小学校
・走行距離ー64キロ
・使用金額ー172円
・天気ー晴

今日は土曜日なので竹下先生が家の方で昼ご飯をご馳走してくれるそうだ。学校の生徒達と写真を撮り出発する。

温泉津温泉の先生のお宅を訪ねる。美人の奥さんが待っていてくれて、生まれて初めての洋食をご馳走していただく。ナイフやフォークでおかずやご飯を食べるなんて恥ずかしいけど生まれて初めてだ。奥さんが「はしをあげようか」と言ってくれたけど、こんなチャンスはめったにないので、無理して食べる。食べにくかったけど、こんなに美味しいものを食べたのは初めてだ。ホッペのおちるとは、こんな事を言うのだろうか。日本中には本当にいい人は何人もいることを知りとても嬉しい。甘いものなどを貰い出発する。


汗をかきかき奮闘中

しばらくして、荷物のベルトが切れてしまい、送料の150円がいたいけど、大阪に送ってしまう。軽くなったけど、前と後にくくりつけた毛布と飯ごうだけでは、貫禄もなくなったみたいだ。でも自転車と俺がまるで一体になったようだ。

しかし今日は県道のせいか、道が特にデコボコで自転車の調子が悪いので走りづらい。力を入れてペダルを踏むと、チェーンが空回りするのでこわごわ足に力を入れる。これは疲れる。予定の半分ほどで日が暮れてしまった。

浜田の手前10キロほどのところで小学校を見つけ、泊めてもらえることになる。風呂に入れてもらい、ご飯まで炊いてもらいご馳走になる。もう最高。

島根県国府町 宇野小学校 近重 三次郎さん
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壇ノ浦古戦場跡

・昭和39年8月23日

・宿泊地ー三谷小学校
・走行距離ー118キロ
・使用金額ー147円
・天気ー晴後小雨

海でのんびり

関門トンネル

今日まで二人ともイライラしながらもなんとなく一緒に走ったけど、昼頃ついに別れてしまう。

駅で昼寝をすることにして、1時間ほど寝てる間に、時枝君は、走り去ったようだ。目を覚ましたときは、姿は見えなかった。やっとのびのびと自由になった、と言う気持ちだ。時枝君もきっとそう思って走っている事だと思う。

一人旅をしているものが、一緒に走るには、よほど気が合うか、どちらかの人が人間的に出来ていないと、何日も苦労して走るのは無理だと思い知らされる。一人になったら、体の調子まで良くなってきたみたいで、気分で人間の体なんて変わるから不思議なもんだ。

国道9号線も大分よくなりつつある。でも今は工事中ばかりで、特にひどい道だ。野坂峠ではひどい目に遭う。雨まで降ってきて、もう参ってしまった。

三谷小学校に行き、泊めてもらえるよう頼む。ちょっと嫌な感じの先生だったが、もう後には引けない。今日はここに泊めてもらえることになった。それも、医務室のベッドに寝させてもらえる。とても寝心地がよい。寝心地はよいけど、「浪花節」の好きな貞永先生には参った。ながい時間座らされて、「浪花節」を聞かされた。とても長い時間だった。

山口県阿武郡 三谷小学校 貞永 降市さん
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