日本一周自転車旅行 いざ出発!



いざ 紀伊半島
・昭和39年6月26日

・宿泊地ー和歌山の堤防
・走行距離ー130キロ
・使用金額ー220円
大阪、奈良の県境

日本一周するために特別に組み立てもらった、まだ新車みたいな自転車と、この日の為に買っておいた装備で出発。父ちゃんの顔をみると決心がにぶるので、まるで家出みたいだった。

奈良の五条から橋本を通り、和歌山市には予定より早く着く、快適なスタートだ。足の心配はない。今日の為に何回も琵琶湖や京都まで走ったし、田舎にも行ったから。心配なのは精神力だけだ。

関西電力の学校で学ぶ川内君(同級生)に会う。いろんな話をしたけど、これから先の不安の方が大きく、俺の頭は混乱している。それに、今日の寝床を探さなくてはならない。堤防で寝ることにしてまずひと安心。

ぼやっと川を見てたら、舟が何かおもしろいことをしている。どうやら「うなぎ」を取ってるらしい。

葉の着いた木の枝の束を川に沈めておき、その束を舟の上からそっと上げ、大きな網で受けておいて束をガサガサ揺すると、中で寝ていた「うなぎ」が網の中に入ると言う仕掛けらしい。こんなの初めてだ。餌もいらんし、うまいこと考えたもんだ。

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・昭和39年6月27日

・宿泊地ー田辺市の喜多幅さん宅
・走行距離ー100キロ
・使用金額ー10円
・天気ー晴れ後、雨
白浜道路(通行料10円)

山の上までみごとなミカン畑、あんなに山の上まで手入れに行くのは大変だろうな。まるで田舎の山田みたいに山の上まで、ミカン畑が続いている。

有田川もあんなに大きく力強く流れているのに、俺はどうだ、一人雨の中を寒さに震えながら、寂しく、ガタガタ道をトボトボと峠へと自転車を押して上がる、なぜこんなことを始めたのか、早くも情けなくなる。かなりの山道を行ったところで、道を間違ったことに気が付く、どうしょうかと悩んでいるとき、山の上から車で下りて来た上田さんに出会う。

車に乗せて貰い、とても親切に話をきてもらい、知り合いの「喜多幅さん」の部屋に泊めてもらえるように頼んでもらう。喜多幅さんは東京から田辺まで歩いたらしい、すごい人もあるもんだ。朝方の苦しみも嘘のように吹っ飛んでしまった。旅に出て人の親切が身にしみる。

田辺市秋津町      上田さん

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串本 橋杭岩

・昭和39年6月28日

・宿泊地ー国鉄勝浦駅
・走行距離ー116キロ
・使用金額ー155円
・天気ー曇

今日はどうしても田舎(三重)まで行きたくて、むちゃくちゃひどい道を、やけ気味にガタガタ走る。それにしても和歌山の道の悪いこと、気が狂いそうだ。

これでも一級国道(42号線)とは、お粗末すぎる。峠に自転車を押して上がりヤレヤレと思ったら、又目の前がすぐ峠、まったくつらい。

15時間も走り通し、やっと勝浦に着く、新宮はそんなに遠くないはずだが、もう夜の10時を過ぎている。真っ暗な山の中ばかりで、家もなく通る車もなく、とても寂しい.

この気持ちは誰も分かってくれないだろう。もう今日は足がパンパンで走れない。駅のベンチで寝る。

一人休んだ、山の中、近くにいそうなウグイスの声。

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