日本一周自転車旅行 富山県 石川県 福井県 京都府



タバコのはを干している

・昭和39年8月15日

・宿泊地ー立野小学校
・走行距離ー117キロ
・使用金額ー291円
・天気ー晴

糸魚川中学校を7時に出発。親不知から「とまり」迄、全くひどい道をがむしゃらに走る。曲がりくねった峠をいくつも上り下りする。こんな所にも人が住んでいるのかと、感心してしまう村をいくつも通る。

しかし海の美しさは、心にしみる。澄み切っていて、身も心も清くなるみたいだ。美しい景色が、次から次へと続き、ここに住む人はきっと心のきれいな人ばかりじゃないかと思い、こんなおとぎ話の中に出てくるような所に住んでみたいな、と思ったりするが、俺は旅行者だと自分に言い聞かせる。「とまり」からの美しさで心が弾み元気良く走る。

食堂で夕食を食べる。おつりが50円多かったが、黙って貰っておく。でもその後味の悪いのにはいやだった。返せば良かったと後悔する。すいません。

高岡市の小学校に着いたのは7時過ぎ。おそるおそる泊めて欲しいと頼む。快くOKしてもらう。「よかった」この頃ものすごく家に帰りたくてたまらない。たぶん俺の顔つきまでしょんぼりしているんやないかと思う。これから先が心細くなってくる。ここまで来たんだから、絶対に頑張ってやり通すぞ。


石川県 九谷焼

石川県境
富山県高岡市  水野 政敏さん
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福井県境

・昭和39年8月16日

・宿泊地ー福井市公民館
・走行距離ー127キロ
・使用金額ー428円
・天気ー晴

嬉しいことに毎日良い天気で気分がよい。毎日のように同じ仲間に会える。富山ー石川ー福井と調子よく走る。夜は寂しくなるけれど、昼間はそんなことは忘れて、随分と楽しいことが多い。松江さんと二人なので、余計に気持ちが落ち着いているのだろう。

少し観光する余裕が出てきて、小松市で九谷焼を見学する。一つの作品を4回も焼くそうだ。面倒で細かいのに驚く。

アスファルトの道路にシンキロウができて、彼方がかすんで見える。まるで砂漠でも走っているみたいだと思いながら、オッチラオッチラ走る。素晴らしいペースだ。

福井市の小学校に行き、泊めて欲しいと頼んだけれど、断られる。公民館に行ってみる。八時頃で誰もいない。隣が消防署で、そこの人に聞いてみると、「いいだろう」と言う返事を貰い、泊めて貰うことにする。

ここに来てやっと飯ごうを買う決心をする。朝食を自炊することにして、米やおかずを近くの店で買ってくる。大きい部屋でのんびりする。ここが田舎だったらいいのになと思ったりする。

二度とこの時間は戻ってこんのだから、大事にしなきゃと言い聞かせる。


武生トンネル

福井消防署 麻生津分遣所

福井消防署 麻生津分遣所 島田さん
福井市消防署 麻生津分遣所 島田さん
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越前海岸県立公園

・昭和39年8月17日

・宿泊地ー小浜市東芝電機寮
・走行距離ー90キロ
・使用金額ー416円
・天気ー晴

今のこの気持ちをどう書けばいいだろうか。知り合った青年は、東芝電気の寮に入っていて、そこに泊めてやるからとついてきたけど、何となく落ち着かん。青年も途中で、俺が面倒になったんだと思うけど、何となくイヤみたいな事を言うし、公民館に行ったり、市役所に連れて行かれたりして、その度に嫌になってくる。寮の風呂にも入れて貰ったけど、どうしても落ち着かん。しかし二人とも嫌な雰囲気のまま泊めて貰う。

ここからだったら、大阪まではすぐだから、帰ってしまいたい。敦賀市で松江君と別れたが、京都から大阪まで一緒に行けばよかったと気持ちがぐらつく。

松江君の完走を祈る。


敦賀市の大社

敦賀道路
小浜市上竹原 吉岡さん 
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松江君と天の橋立

・昭和39年8月18日

・宿泊地ー資母小学校
・走行距離ー?キロ
・使用金額ー420円
・天気ー晴

吉岡君の部屋を六時前に出る。夕べの気づまりから解放されたら、今日は朝から調子がよい。道はとても悪いけどそのわりに楽しく走れる。天の橋立に着いたのは昼頃かな。大工をしていたときに一度親方や兄弟子達とみんなで来たことがあったので、思い出してとても懐かしかった。

松田君と橋立で会い、いろんな話をする。お互いになぐさめあって別れる。この辺は「山椒大夫」の話に出てくるところらしい。俺にはあまりいい感じではない。なんとなく意地悪ばあさんが出てきそうだ。その為か知らないけど、村が何となく暗く、米を売って欲しいと頼んだけど、五合の米も売ってくれなかった。それにこの辺は、本場の「丹後ちりめん」の産地とあって、どの家でもガチャガチャと織機の音がしている。ちょっと見させて貰う。大変な仕事だ。

こんな山の中に子午線があり、そこだけ何だか浮き上がっているみたいだった。念のために、東経135度、北緯35度30分。


ほこりを上げて走るダンプ

頭の中は早く帰ることでいっぱいだ。すぐ汽車に乗って帰ってしまいたい。でもそれは出来ない。いろんな事が頭の中を走り回る。体の中から気力が無くなり、走ることが嫌になってしまう。まだ時間は早いけど、資母小学校に行き「泊めて欲しい」と頼む。快くOKして貰う。きっと情けない顔をしていたのだと思う。

安心したら急に元気になるから、自分ながら情けないやら、おかしいやら。洗濯をしてから、大阪に送り返す荷物を作る。いらんもんをいっぱい持って走ることないもんね。第一重くてたまらん。最初から少なめで出発すれば良かったけど、みんないるもんみたいに思って心細かったけど、今は慣れたせいか、ほんの少しの道具でことたりる。

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